
太
「邦ちゃんを切らざるを得なくなってしまいました」
鶴
「困りましたなァ。総理。『抜き打ち』とあれほど私が云ったぢぁな
いですか」
太
「いや、政局にしてはいかんと思ったんですよ。それは困る」
鶴
「それは違いますなァ。政治の最後は政局です。勝つか負けるか。そ
れだけですゾ。困るなァ、あんたも太賀吉さんの子供だ。それぐらい
判ってなきゃ……」
太
「いや『抜き打ち』は考えたんです、俺は。あ、すみません。ただ、
あっちも首を縦に振らないきゃ、こっちは俺を追い落とす動きがあっ
て……」
鶴
「あっちってんのは信濃町かね」
太
「え、まぁ」
鶴
「あとは神奈川と三田が動いているでしょ」
太
「お察しの通りです。上げ潮なんて顔ぢぁない、下げ潮のようなでけ
ぇ顔の男も動いていてですね……」
鶴
「こんどの人事はまぁ、十中八九、三田の学者が動いてますなぁ。む
ぅううん、まぁ危機感だろうね。総理、潮目というものがある。何事
も潮目を読めなければ、負けです。こんなことを云っちゃいけないが
、潮目は郵政見直しです。そこまでは声にはなっていないが、明らか
に、総理の仰るでけぇ顔とか、渡り渡世の女とかね、群馬の下手な若
造なんか大したことぢぁアない」
太
「そうですか?」
鶴
「だから困るんだ。それぢぁ。我が国はアメリカと連動しておる。そ
れについちゃ、あんたの爺さんなり私等が敷いたレールだし、それに
ついてとやかく云う奴もそりゃいる。河野も三木も音羽の爺さんだっ
てあれこれ強がりを云ってたが、爺さんと私らの敷いたレールは最善
だと思っておる。それが繁栄にいった。そこでだね、我が国は米国の
影響の元に存る。そうぢぁありませか?」
太
「まぁ、おいらとしては、そろそろ対等にしなきゃいけないがと意い
ますがね」
鶴
「あんたに出來る訳がない。まぁ正確にいうならあんた以外の人間に
もそりゃ出来んよ」
太
「───」
鶴
「米国を見れば判るでしょうが。潮目は先に変わった。とうぜんこっ
ちの潮目も変わる。がたがた云ってる連中は、すでに潮目に乗り遅れ
た。あいつらが云う守旧派なんてッレッテルがこんどは自分たちに烙
されてるのを判っちゃいない、まぁ、皮肉なもんですなぁ」
太
「そんなもんですかい?」
鶴
「時流はそういうもんです、総理。流れが早ければ早いほど、流れに
乗ったもんは、その流れを先へ見極めんと、すぐ流れに弾き出される。
まぁ、なんとか託児所の連中もそうだが、あいつらは尻馬に乗っかっ
ただけ、党にとっては百害有って一利なしだ。さっき云った、連中も
もう乗り遅れとる。自縛っていう奴でしょ。大きな旗を立てて流れだ
流れだと叫んだはいいが、あちらさんは逆だ。旗が降ろせんのだねぇ。
政治というものは、旗を立ててもそれを降ろすことができるのが政治
だ。そういうもんが判っちゃいない。だから降ろせんのです。三田の
バカ学者もそっちだわな」
太
「ぢぁ、なんとかなるんでしょうか?、策は?」
鶴
「あんたが『抜き打ち』をしとればよかったんだが、それが出来なっ
かっとなるとぉ───むぅううん」
太
「邦ちゃんも出ていっちゃうことはないと意うんですが……」
鶴
「総理、あんたにも云ったけれども、総理は総理だ。伝家の宝刀を使
うタイミングを逃しちゃいけませんゾ。そうした終わりだ。前にも云
ったけれども、一度権力を手放したら、その後、それを取り返すのに
は金は幾ら有っても足りん。政権は死守なさい───と云った筈です
がね」
太
「それは、それはちゃんと銘じております」
鶴
「ぢぁ、云うが───。あいつらこそ守旧派だっと持ってゆく。恐ら
くそうなる。世界の潮目がどこを採っても変わっとる。あいつらこそ
が旗を降ろせない者たちだってことを、今や郵政民営化の旗なんか持
てる連中こそ、国民のことなぞ判っちゃいないってことを、印象づけ
なきゃならんね」
太
「できますか、そんなこと───」
鶴
「あります。ラフレ埼玉だ。あそこをマスコミに突かせればいい」
太
「それなんですか?」
鶴
「あのなんだ成金の貸金が狙ったのは、ラフレだろうね。まぁ外のか
んぽはおまけ見たいなもんだ。そこを西川が乗ったという話だ。まぁ
民間企業で云えば、背任だ。そこです、突けば流れがまた変わる。そ
れは、恒雄さんにやってもらうんだねぇ。やってくれるでしょ」
太
「そりゃ、追い落としぢぁないですか───」
鶴
「困りますねぇ、どこぞのお坊ちゃんぢぁ」
太
「いや、ちゃんと愛人だって店出させてやってますよ。それぐらいの
器量はあります」
鶴
「そういうところだけでもねぇ。まぁいいでしょ。これは大きな博打
だが、不平を云う連中には出ていって貰う。落とすんです、選挙で」
太
「いまの情況から見たら、それや下野ぢぁないですか?」
鶴
「いや」
太
「といっても、信濃町のほうも」
鶴
「再編です、再編するしか手がない」
太
「そんなことできっこないでしょ。野党は固まっているンですよ」
鶴
「困るなぁ、それぢぁア。まず、託児所の連中なんか吹けば飛ぶ奴等
だ。直ぐ落ちる。でっけえ顔やその複数は入ってくるでしょうが。あ
の女は、我が党が下野したら、こんどはまた、何事もなかったように
民主党へ行って大臣狙いで行く。まぁ厚化粧な女は決ってそうだ」
太
「はははは」
鶴
「そこでだ。旗を降ろす連中は降ろさせればいい。まぁ選挙に落ちた
らただの人。そこです。一人一人どうするかを迫れば可い。託児所の
連中でも、まぁ乗ってくる連中は党が面倒見ようで構わない。選挙の
次第では下野する数になるかも知れないが、だからこそ信濃町にも云
える、ただの野党で可いんですか、とね。信濃町はぜったい付いてく
るでしょうなぁ。
大義名分を立てるにはね、総理。神奈川と三田の路線をはっきり切ら
んと前へ進めない。これがあんたが政権を死守できるかどうか、党が
生き残れるかどうか───そこです」
太
「いや、そうは仰るけれども、俺も賛成な部分もあるし納得しかねる
部分もあって、そうそう簡単には否定できません」
鶴
「あんた、それぢぁ政治家ぢぁない。生きるか死ぬしかないのが政治
ですぞ。まぁタイミングもよるが、いまの情況は沈み行く船だ。まぁ
そういう嗅覚もない連中が多いが、選挙次第では党は割れますな。そ
の前です。邦夫くんには子会社をやって貰う」
太
「どういうことです」
鶴
「沈み行く船には誰も来やしません。それでも下船しませんという連
中はあんたに付いて行きますよ。そこで踏み絵です。だが───」
太
「だが───とは?」
鶴
「大義名分ですな、その旗を立てなきゃいけない。いまの旗は色が判
らん。旗幟を鮮明にするとして、まぁそこの旗幟はなるべく大きな事
や坊ちゃん風のもんぢぁダメです。だが、子会社が先です。そこに窓
口になって貰う。邦夫君なら邦夫君にやって貰う。そこを受け皿にし
て、選挙後連立です。亀井君も、郵政見直しなら乗ってくる。ただそ
れだけで済む」
「政治は詭計です。ほざいてる連中も権力の側に存るからあんな事を
云ってられる。脅せば可い。腰砕けですよ」
鶴
「まッ、芝居を打つことですな。敵を騙すより身内を騙すほうがこの
際は得策でしょ。党が少数になったとしても、子会社と親戚の会社を
合わせればなんとかなるでしょうなぁ。大義名分も立てられる、幾つ
もある。相手は郵政見直し。それを呑む。ガラガラポンで出る目は、
どちらにしてもあんたには有利になる筈です。それぐらいの構想では
ないと勝てませんゾ」
太
「しかし脱党者なり反対派がどれぐらいになるか───」
鶴
「多かろうが少なかろうが構いやしません。米国が、市場原理主義ぢ
ぁダメだとなった、欧州の情勢もそうです。欧米がそうなら、我が国
もそうなる、連動する。これが私にやぁ知らないがグローバリズムの
産物というもンぢぁないですか。あいつらが言い立てるグローバリズ
ムによってあいつらが退場する。そこです、突くのは」
太
「しかし手駒が───」
鶴
「そうだな。智慧者がいないか。そこが問題だねぇ───」

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